妻同伴で。

昨夜、彼は接待で遅くまで飲んでいた。
新しい取引先の担当者と意気投合したとかで、
仕事の話も上手い具合に進みそうだという。

話が盛り上がり、成り行きで休日にバーベキューでもという
話になったという。「奥様もご一緒に」と、話がまとまったようだが…
問題はダーリンである。『妻』と名前のつく人間が
居るには居るが、あの妻を連れて行けるわけがない。

どうするの？と聞いた私に、彼はこう言った。
「レイコと行くに決まってるじゃないか。」

なんですって？

呆気にとられる私を、当然だといわんばかりの表情で
見返すダーリン…。よくよく聞いてみると、どうやら彼は
私を妻だと偽って同伴する心づもりだったようだ。

とんでもないわ。

美容室やモデルルームで夫婦ごっこをするのとはワケが違う。
そんな嘘がバレたら、信用問題に関わる。しかも、バレる確率が
高い嘘、なのだ。取引先の人間と私が、何かの機会に会社で
顔を合わせる可能性は十分考えられる。

私の危惧をダーリンは笑って聞き流し、バレたら笑い飛ばせば
いいじゃないか、などとお気楽なことを言う。

やれやれ…。まったく…。私は二の句が継げないでいた。

それにしても、ダーリンは不倫男としての自覚が
無さ過ぎる。なんてひどい男なのだろう（笑）
不倫相手の私を、幾組かの「夫婦」と同席させようと
するばかりか、妻のフリをさせようとするなんてね。ふふ。

だいたいからして、不倫チャンというのは、

「正々堂々と夫婦で居られるヒト達と過ごすなんてツライ…」
「妻でもないのに、妻のように振舞うなんてツライ…」
「本当にあなたの妻だったら、こんな思いしなくて済むのに…ツライ…」
「ツライ…私たちは、夫婦じゃないって、思い知らされて…ツライ…」

とかなんとか言い出すもんだと相場が決まっているのに。
ダーリンったら、地雷を踏ん付けたも同然なのに悪びれもせず、
微笑んでいる。まぁ、私がそんなことを「ツライ」と言うような
女じゃないとわかっているからこそ、なんだろうけど。

そんなダーリンが愛しいのよ♪

「奥様にお願いすれば？」と、意地悪を言うと、
「あんなヤツと行きたくないよ。」と真顔で嫌がるダーリン。

さて、どうなることやら？（笑）