彼の子

2003年9月13日
「レイコ、子供作ろうか。」
車を運転する彼が、呟くように言った。

彼はもう長い間自宅に帰っていない。
だから子供にも会えない日が続いている。
街で、デパートで、映画館で・・・彼の子と同じ年頃の子を
目にする機会は嫌というほどある。彼はどんな思いで
そんな家族連れを見ていたのだろう。

「突然ね・・・どうしたの」と微笑んだ私に
「今、無性に子供を育てたいんだ・・・。」と彼は答えた。
彼は、目の前の横断歩道を渡る幼い子を見ていた。

不倫を選んだのは彼と私だ。
自分が選んだ道なのに、ことさらに感傷に浸るなんて
滑稽だと思う。それは私だけではなく、彼も同じだ。
例え辛いことがあっても、それが当然なのだ。
泣き言を連ねて自己憐憫に浸るなんて趣味に合わない。

だから彼が、溜息をつくように子供のことを話題にするなんて
余程のことなのだ。可哀想なダーリン・・・。
彼がひどく落ち込んだり、沈み込む時は、いつも子供に
関わる出来事が原因だ。

「そうね(笑) 産むのならあと5年が限界かしら。
あなたがいいんなら、構わないわ。」私は軽い調子で応じた。

彼は今まで、冗談めかして子供を作ろうと言ったことはあったが、
実際には、「離婚が成立してから」という強いこだわりがあったようで
常に私が妊娠しないように配慮していた。そういえば一度だけ
私の浮気封じに子供を作ろうとしたことがあったけど…(苦笑)

そんな彼が真顔で言う。
「レイコと俺の子供が欲しい。本気で考えてみないか。」

愛しいダーリン…。

わかったわ、作りましょう。
とは言っても授かるかどうかは運次第よ?
状況?そんなのどうにでもなるわ。
子供の気持ち?大丈夫よ。きっと幸せに育つわ。
私とあなたの子なんだもの。

私は彼の手にそっと触れた。
彼は安心したように指をからめてくる。
強いダーリンも好きだけど、そんなあなたが垣間見せる脆さも
愛しているのよ。そう、すべてを。

本当に子供を作るのか?、ですって?
産むつもりなのか?、ですって?

そんなことは問題じゃないの(笑)
彼の心に寄り添うこと、その手ごたえだけで充分なのよ。
レイコ、し・あ・わ・せ。

そう言えば、彼の奥様も二人めの子供を欲しがっていた。
確か・・・兄弟を作ってあげたいから、体外受精でもいいし
誰かの精子をもらってもいいから・・・とかおっしゃってたわね。
もしも私が妊娠したら・・・
彼の子には念願の兄弟ができるってわけね♪うふ。

頑張らなくっちゃ。

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