(つづき)

彼はちょっと怒った風に、そして観念した様子で投げやりに言い放った。
「××さんだ。昨日電話もらってたから、かけただけだよ。
この前出張で会ったときに相談事があるって言ってたからね。」

××さん・・・?
ああ、知っているわ。あの人ね。取引先の社員。
ダーリンが目をかけていたのは知っていたけど・・・。
ふうん、なるほどね。

私はわざとらしく溜息をついてから、静かに言った。

「もう、嘘はいいのよ。真実だけ話さないと、この電話を切るわ。
それでオシマイよ。忠告するわ。ちゃんと話すべきよ。」

「本当だよ。相談したいからって・・・
電話で話したのは3回程度だし、・・・。」

私は目を閉じて考えた。彼の予定…
確か来週また東京に出張するはず。

ここが勝負どころね(笑)

私は冷たい声でダーリンに言い放った。
「そう。じゃあ、あなたは3度電話で話しただけのヒトと、
『あんな約束』をしたってワケね?」

『あんな約束』なんて、もちろんハッタリだ(笑)

留守電にどんなメッセージが入っていたか知らない彼は
私がカマをかけているのか、証拠に基づいて問い詰めて
いるのかを測りかねているようだった。

でも、彼は怪訝な声で聞き返したり、素っ頓狂な声で
不思議がったりはしなかった。彼は黙っていた。
言葉を失ったのだ。その女性と、何らかの約束を
していることを認めたことになる。

私は畳み掛けるように彼に囁いた。
「何も話すことがないなら切るわね(笑)さようなら。」
「待って!切らないで、レイコ!」
彼は言葉を探しながらも、私を止めた。

「何か用かしら?作り話は聞き飽きたわ。
ひとつ言っておくけど、この電話を切った時に
あなたとの縁は切るつもりよ。脅しなんかじゃないわ。
馴れ合いはごめんなの。」あくまでも優しい声で・・・。

「わかったから、とにかく切らないで!」

私が黙ると同時に、彼はポツリ・ポツリと話し始めた。

「ここのところ、レイコの気持ちが見えなくて、不安だったんだ。」
(私の浮気以来、彼は時々こういう発言をする。愛しいわー♪)

「彼女と話していると、気が紛れたし、楽になった。
相手は別に彼女でなくてもよかったんだ。
誰でもよかった。仕事のことや、彼女の趣味の
占いの話、そういう他愛もない話をしていただけだよ。」
(まぁ!ダーリンが『占い』ですって!?愛しのダーリンがそんな
少女趣味に傾倒するなんて!ああ驚いたー…ちょっと笑えるかも)

「また東京に行ったときにでも飲みに行こうとは
話したけど、何もないよ。前の出張で、お茶を飲んだけど
ただそれだけだ。本当に。」
(なるほど。『約束』は、これだったのね?
留守電に「会えるのを楽しみにしています!」
なーんて、入っているとでも思ったのね。) 
 
<分析1>
いつもの浮気じゃない。言い訳が丁寧すぎる。
彼は、どうでもいい相手とのおイタなんて腐るほど経験している。
発覚すると酷い言葉で相手を切り捨てるのが常だった。いとも簡単に。
でも今回はどうだ?占い?私は思わず自分の額を叩いた。

<分析2>
留守電で聞いた遠慮がちなモノの言い方と、彼の言葉を考え合わせると、
この二人は始まったばかりの関係だ。前回の出張で彼は、久し振りに
出向いた会社で彼女と再会したのだ。これは私も知っていることで
間違いない。関係は、浅い。

<分析3>
ダーリンはすぐに謝らない。すぐに切り捨てようとしない。
彼女の存在価値を認める発言をする。といっても、ダーンの
気が紛れたという些少な「存在価値」だが。それにしても
これは今までにない出来事である。見過ごせない。

(つづく)



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